チャイルドシートに的を絞った試験公開
新年早々の恒例となりつつある自動車アセスメント(JNCAP)の試験公開が今年も実施された。とはいえ、衝突試験は、自動車メディアに籍を置く人間であれば、過去に何度か見学したこともあるだろう。ただ、ぶつけるだけでは面白くない。そんな風に自動車アセスメントを実施する独立行政法人自動車事故対策機構(NASVA)も考えたのかもしれない。
今年の試験公開は、ただの衝突試験ではなく、チャイルドシート関連に重心をかけたものであった。最初に公開されたのは、チャイルドシートの前面衝突試験だ。椅子状になった台車に、ダミー人形を乗せたチャイルドシートを固定。その台車ごと、時速55km相当の加速度で、一気にシート後方方向に移動させる。ゼロから一瞬で時速55kmへの変化は、まさに打ち出すという表現がぴったり。現場で撮影された高速ビデオのスロー再生で、その瞬間のダミー人形の動きを見れば、いかに衝撃が大きいのかがわかる。
今回は、その試験の後に、ダミー人形をメンテナンスする裏方の様子も説明された。計測機器となるダミー人形がいかに精密なものであり、かつ丁寧に扱われているのかを知ることができたのだ。
続いてが、今回の公開の目玉となったフルラップ衝突試験だ。1台の車両に、2つの性能の同じチャイルドシートを装着。しかし、片方の装着をわざと緩めることで、正しい装着とそうでない場合の違いを、実際に試してみようというものであった。
“シャー!”と、車両を牽引するワイヤーの音が響いた後、滑るように参加の面前に表れた2つのチャイルドシートを搭載したミニバン。あっと言う間もなく、“ターン!“という音をたててリジッドバリアに追突する。ある意味、見慣れた風景ではあるのだが、今回は、その中で2つのチャイルドシートに据えられたダミー人形の動きが肝心であったのだ。
装着の違いによる衝突被害の違いはどれくらいだったのだろうか? 具体的な数値の違いは、春に開催される2013年度の自動車アセスメント結果発表時に公開されるという。しかし、現場で撮影された高速ビデオを見る限りでも、2つのチャイルドシートに据えられたダミー人形の動きは大きく異なっていた。もちろん、装着が緩いダミー人形は、弾むように大きく瞬間的に揺さぶられていたのだ。
そして、最後は施設内にある模擬市街路へ。ここでチャイルドシートの有用性を実感する体験が行われた。参加者がミニバンの後部座席に着席。膝の上に、赤ん坊サイズのダミー人形を抱える。その状態で急ブレーキをかけるというもの。人間の力だけで、ダミー人形を保持することが、いかに困難であるかを実感してもらおうという意図だ。ちなみに、AJAJが実施する「母と子の楽ラク運転教室」でも、同じ意図のカリキュラムが存在するように、やはり文面だけでなく、実際に体験することが大切なのだな、と改めて思う次第であった。
子供の安全は親の責任だ。しかしながら、彼らを啓蒙するのは、自動車メーカーや我々メディアの仕事でもある。街中では、チャイルドシート未使用で子供を車両に乗せる姿も見ることができるように、まだまだ世の親たちにチャイルドシートの有効性を知らしめる仕事は道半ばなのだろう。
■参加者(敬称略、五十音順) |
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鈴木健一、丸山誠 |