2019年1月30-31日。北海道旭川市にて横浜ゴム主催のスタッドレス勉強会が開催されました。30日夜に座学、31日に実地の勉強会でしたが、ここでは30日夜の模様を報告します。
まず最初にプレゼンテーションされたのは消費財タイヤについてです。消費財タイヤという言葉は一般ユーザーにはなじみのない用語ですが、タイヤ業界では普通に使われている用語です。消費財というのは一般ユーザーが消費するという意味で、対義語は生産財タイヤといい物流などで使われるタイヤを差します。
今期は新しいスタッドレスタイヤの発表がないこともあり、欧州で販売されているオールシーズンタイヤが紹介されました。名称は「ブルーアース4S AW21」と言います。このタイヤは2018年のジュネーブモーターショーにて発表され、すでに欧州では販売が開始されています。ジュネーブモーターショー発表時の資料には、14インチから19インチまで30サイズ以上を用意、さらに今後もサイズ拡大が予定されているとなっています。
「ブルーアース4S AW21」のトレッドデザインは、現在のオールシーズンタイヤのトレンドであるV字型です。特徴的なのはスタッドレスタイヤ的なサイプがほとんど見られないことです。ASTM(米国材料試験協会)認定によるスノーフレークマークと、TUV SUD(ドイツに本社のある第三者認証機関)に認証されています。現在、日本での発売については未定、さまざまな要素をクリアしなければ販売はできないとのことでした。なかでもユーザーがスタッドレスタイヤと同じ感覚で使ってしまうことがもっとも大きな懸念材料とのことでした。
今回の勉強会では生産財タイヤについての紹介も行われました。生産財タイヤの守備範囲は非常に広く、トラック、バス、ライトトラックといった公道を走行するものはもちろん、ダム建設用のダンプ、農耕機、モノレール、飛行機、そして工場のベルトコンベアを動かすためのタイヤなど、私たちの創造を超える種類が存在します。
そうした生産財タイヤのなかで、もっともなじみがあるのがトラック&バス(T&B)タイヤでしょう。私たちはトラック&バスタイヤも乗用車タイヤと同じように、夏は夏タイヤ、冬はスタッドレスタイヤで使っていると思いがちですが、じつはそれは違います。2017年の販売構成比を見ると、スタッドレスタイヤが45%、オールシーズンタイヤが37%、サマータイヤが18%となっています。トラックやバスは、いかなる時でも走れなくてはならないので、スタッドレスタイヤやオールシーズンタイヤの割合が多く、サマータイヤは高速バスなどに限って使われるとのことでした。
T&B用スタッドレスタイヤが雪や氷上でグリップするメカニズムは乗用車用スタッドレスと何ら変わりはありませんが、T&B用タイヤは大荷重に耐えなければなりません。車両総重量1.6トン、タイヤ4本仕様の乗用車のタイヤが静止状態でうける荷重は、前後左右の重量配分が均一とすれば400kg程度です。しかし車両総重量25トンで10本のタイヤを持つ大型トラックの同条件での荷重は2.5トンにもなりまったく異なります。この重量を支えつつ、雪上、氷上でのグリップを確保しています。ですので、コンパウンドを柔らかくする、サイプを増やすということが難しいのが現状で非常に高い総合力が要求されていることがわかりました。また、T&Bのドライバーはブレーキは速度や車間距離で調整可能(つまりブレーキが効かないなら、速度を落とし車間距離を取ればいい)だが、発進や加速はタイヤの性能に頼るしかないということで、とくに坂道での発進性能などに対する要求が強いとのことでした。ドライバーはこうした要求が強い一方、タイヤを購入する経営者は耐摩耗性の向上を大きく要求しているとの話も納得です。
今回はさらに、新しい提案としてトラックのダブルタイヤをシングルタイヤに変更できるウルトラワイドベースを使ったタイヤの紹介もありました。たとえばフロント295/80R22.5のタイヤを455/55R22.5に変更すれば、80%のトレッド幅を有しながらタイヤとリムで2割の重量減が望めるということで、燃費の向上や荷室容量の拡大が可能になるとのことでした。
また、横浜ゴムのタイヤ以外の部門であるハマタイト・電材事業部が開発した「自己修復コート材」の紹介も行われました。この「自己修復コート材」はクリア塗装のように使うことで、その名のとおりキズがついたときに自己修復する機能を備えています。
そのメカニズムは弾性あります。キズがついても弾性成分を破壊しない限り、キズがふたたび正常に戻るというものです。通常のコート材やクリア塗装と同様に塗ることで、効果を発揮します。逆にコインやキーでひっかいたキズや飛び石などによるキズでは弾性部分が破壊されてしまうので、元に戻らないこともあるそうです。
「自己修復コート材」自体の耐キズ性は従来のハードコート材と同じ程度で、キズの付き方についてはほぼ同等です。プレゼンテーション会場ではコート材のあるなしの樹脂パネルが配られ、真鍮のワイヤーブラシによるキズつけを行いました。キズの付き方はほぼ同じですが、時間が経つに従って、「自己修復コート材」を塗布したパネルは見事にキズが消えていきます。
従来の同様に製品は自己修復する機能が邪魔をして、塗装後磨き処理が難しかったとのことですが、「自己修復コート材」は通常のクリア塗装と同様に磨き処理ができるので、ブツ除去やつや出しが容易にでき、作業性もよくアフター市場でも導入可能とのことでした。
降雪地ではクルマに積もった雪を下ろす作業でボディがこすられるため、ボディに細かいキズが付きやすく、こうした製品は歓迎されることでしょう。