新日本石油精製株式会社
根岸製油所見学会報告

開催日:2002年4月10日
場 所:京浜工業地帯

新日本石油精製株式会社根岸製油所プレート京浜工業地帯--日本の高度成長期を支えたこの地域の南部、JR根岸駅の海側から三渓園、本牧までの海岸線にかけて位置するのが、新日本石油精製株式会社の根岸製油所。元来は旧・日本石油の製油所として生まれたものだが、1999年の旧・三菱石油との合併に伴い日石三菱精製株式会社に社名を変更。さらにグループの社名変更より一足先に新社名、新日本石油精製株式会社に改名された。

住宅地・景勝地に隣接するこの根岸製油所は、敷地面積でも原油処理能力でも日本一のスケールを誇る。広さからいうと、根岸地区から本牧地区にかけて4km以上の海岸線を占める敷地面積は、ディズニーランド5個分に相当する220万平米。1961年に建設工事を起工し、1964年に根岸地区の製油施設が完成。1968年には本牧第一地区、1972年には本牧第二地区と、4年ごとに拡大して現在の広大な敷地に至る。

製油所の規模は、1日に処理できる装置の能力で評価するのだというが、ここ根岸製油所の原油処理能力は36万バーレル。これがどのぐらいの量かというと、日本全体での原油処理能力が日産498.8万バーレルで、そのうち日石三菱グループ(現新日本石油グループ)の占める割合が24.7%にあたる日産122.7万バーレル。根岸製油所の能力は日産36万バーレルで、国内全体に対して7.2%、グループ内では約1/3にあたる処理能力を持つ。日本国内には33箇所の製油所があり、1製油所あたり日産15万バーレルが平均値となるわけだが、根岸製油所はその平均値の2倍以上の規模を有する。

新日本石油精製株式会社根岸製油所 外観ちなみに、1バーレルは159リットル。ドラム缶の約8割にあたる量で、根岸製油所の処理能力をリットルに換算すると、5,724万リットル。もちろん、その全量がガソリンとなるわけではなく、製品収率(原油から石油製品に精製される割合)は、多い順にガソリンが26%、C重油(電力向け)が19%、灯油・ジェット燃料が17%、軽油が15%、A重油が11%(以上の3つが中間留分)、ナフサが5%、潤滑油が1%、その他6%(2001年データ)。石油製品の需要の軽質化に対応し、根岸製油所では高品質ガソリンや中間留分の増産を可能にする最新設備が備えられているという。

このように日本一の規模を誇る根岸製油所だが、前述のとおり、その立地は住宅地・景勝地に隣接するため、建設当初から大気汚染防止、水質汚濁防止、排出される化学物質管理には細心の注意が払われ、同時に景観に対する配慮も払われてきた。三渓園に隣接する個所では、グリーンベルトを配したり、タンクの壁面をグリーンにペイントしたり、煙突の断面形状を楕円にして景観を損なわないような配慮がなされている。大気関係、水質関係の環境測定値を横浜市にテレメーター端末から伝送するシステムも配されるなど、住宅地に隣接した工場ならではの厳しさが伺える。

このような環境に対する取り組みは、環境管理システムISO14001の認証取得として認められている。1996年4月に、石油業界として世界初となる同認証を受けた。万が一の事態にも、高さ40メートルのウォータースクリーによって市街地と製油所を隔離する水膜設備を備え、1,000分の1の勾配で敷地を海側に傾けてあることによって、流出した油を市街地側に流さない対策、各所に配した地震計によって即座に運転を停止させるシステムなど、災害を未然に防ぐシステムも万全の体制。ゴジラが襲撃してきたり、ミサイル攻撃を受けたら、その防御は「?」だが、少なくとも考えられる危機に対しての安全対策はぬかりない。

新日本石油精製株式会社根岸製油所 外観似たような風景が続き、放り出されたら迷子になりそうな広大な敷地内をマイクロバスで巡回・見学させていただいたわけだが、意外と人気のないことに驚いた。平成14年10月の完成を目指して工事中のIPP(発電事業)施設の周囲には工事関係者の姿が多く見られたが、それ以外の場所は、まるでゴーストタウンのようにひっそりとしている。製油所のすてべの装置はコンピュータシステムによって集中管理されており、その運転は計器室で監視・オペレートされる。装置の運転は24時間休まず行なわれるため、オペレーターは9班2交替12時間勤務というシフトで計器室に詰めるのだという。敷地内に人影が見えたら、それは何らかのトラブルが発生した時、ということらしい。そういえば、ニオイに関してもほとんど感じない。製油所というからには臭いイメージを抱いていたのだけれど、ここよりガソリンスタンドの方がむしろガソリン臭い…と思ったほどだった。

さて、製油所というとガソリンをはじめとする石油製品を製造するファクトリーだが、総合エネルギー企業を目指す新日本石油は、根岸製油所内に1万坪の発電施設を設置して、電気もつくって売ろうという計画を進行中だ。平成15年6月の供給開始を目指して現在建設中の発電施設は、原油精製の過程から生まれる(残った?)超重質油(アスファルト)を燃料に、これをガス化してタービンを回し発電する方式を採用。その発電効率は36%にあたり、プラントの発電能力は43万キロワット。一般家庭63万戸(横浜市の60%にあたる)の電力をまかなう電力量を供給できるものという。