2020年2月28日(金)午後、桜田門の警視庁と道を挟んで向かい側、法務省の敷地内にある法曹会館。伝統的で重厚感ある建築物の中で、未来に向けた日本の社会問題について議論した。
国土交通省・道路局ITS推進室長の安部勝也氏が、AJAJとの定期的な意見交換の要望を出されたことでの開催となった。
新型コロナウイルスの影響などもあり、AJAJからの参加者は6人と少なかったが、その分、熱い議論となった。
冒頭、安部室長から「道の駅等を拠点とした自動運転サービス」実証試験についてスライドを使って説明があった。
当該実証は、平成29年度~30年度にかけて全国18箇所で短期実証と行った後、平成30年度には7箇所での長期実証へ移った。北海道広尾郡大樹町、茨城県常陸太田市、長野県伊那市、滋賀県東近江氏蓼畑町、福岡県みやま市、そして熊本県芦北郡芦北町の7箇所である。さらに、2019年11月30日から、秋田県北秋田群上小阿仁(かみこあに)村で社会実装を始めた。
こうした地域で共通しているのは、いわゆる中山間地域であり、高齢化と過疎化が進み、地域公共交通の継続が難しくなっている点だ。
路線バスの乗車率は低く、バスドライバーの高齢化による人手不足が深刻化。コミュニティバス導入しても採算性は低く、基礎自治体(市町村)としてはさらなる方策を模索しているところだ。
そうした中、国土交通省道路局では、地域に密着した施設である道の駅を活用した、自動運転の実証を進め、長期実証の各地状況を考慮したうえで随時、実用化を進める方針だ。
上小阿仁村での実情
秋田県上小阿仁村での運営主体は、NPO法人・上小阿仁村移送サービス協会。使用するのはヤマハ発動機製のゴルフカート「ランドカー」をベースとした車両が1台。道路に同軸ケーブルを埋設し、発生する磁気を車体型で検知する電磁誘導型の自動運転を採用した。
走行ルートは、道の駅かみこあにを拠点で全長約4km。公民館、診療所、地域交流センター、郵便局など村民の利用頻度が多い施設を主体として停留所を設置。往復1.9km・20分、4km・35分、5km・43分の3ルートを確保した。これらルートは公道で、一般車両と混走する。ただし、上小阿仁村の人口は約2000人で、特に冬季は村内の通行車両数が少ないため、自動運転車の通行にいまのところ支障はないという。
運賃は乗車1回あたり一律200円。また、農作物や日用品の配送を行く、客貨混載事業も調整中。実施の場合、運送料も1回あたり200円を想定している。
運航スケジュールについては、当初は午前1便、午後1便の定時運行を基本としていたが、住民からは電話によるオンデマンドの要望が多くなったため、現在ところ、午後便はオンデマンド専用とした。
自動運転は現在、レベル2で実施。そのため、車内には運転の主体となる運転者が常時、走行状況を把握する必要がある。運転者は地域住民が担う。車両は白ナンバー登録で、運賃収入との整合性を持たせる、自家用有償旅客運送の許可を得ての運用だ。
日当たりの乗車人数は、運用開始後の2ケ月間で10人前後と少ないが、実用化に対する周知が今後さらに進み、また客貨混載の実施によって利用数が増えることを見込んでいるという。
自動運転の解釈とは?
安部室長の説明の後、AJAJ会員各位から質問、また厳しい意見が数多く出た。「こうしたドライバーが常時乗車で自動運転をいうのは、一般的なイメージとは違うのでは?」、「今後、電磁誘導線を住民各戸まで引くことが理想的なのか?」、「思い切って村の中心部を(戦略)特区の認定を受けて、一般車両の通行を制限し、さらに高度な自動運転を実施しても良いのでは?」など、自動運転に対する”そもそも論”から、具体的な施策案までいろいろ出た。
国土交通省道路局のスタンスとしては、導入コストを抑えるためには、現状でヤマハ製の現行車が最もリーズナブルであり、地域公共交通機関の継続的運用のためには、現状の運用内容を基本的に維持することを目指すとした。
また、道路法改正案が2020年2月4日に閣議決定されており、「自動運転を補助する施設の道路空間への整備」を盛り込み、会期中の通常国会での成立を目指す。
自動運転実証地の現場からひと言
筆者は、福井県永平寺町エボルーション大使を同町から任命されている。町長や町職員の公務を正式な立場で支援し、国、県、民間企業等との会合等に、行政側の人間として同席している。
同町では経済産業省・国土交通省(自動車局)が主体で、システム技術開発を産業総合技術研究所が担い、運用を町の第三セクターで行い、自動運転ラストワンマイル社会実証を進めている。車両は上小阿仁村と同様のヤマハ車両だ。基礎実証を経て、本年度は1ケ月実証と6ケ月長期実証を行い、最大で1日あたり10台を運用してきた。来年度から、道路運送車両法の一部改正の施行に伴い、遠隔監視によって最大、オペレーター1:運航車両2台によるレベル3で実用化を行う予定で現在、関係各方面と最終協議中だ。そのため、今回紹介のあった国土交通省・道路局が進める自動運転事案についても詳しい。
その他、交通・物流・介護・観光など永平寺町および広域での行政および民間企業関係者で地域の移動や生活について議論する、永平寺町MaaS会議の取りまとめ役として、自動運転実証の将来像を定常的に考察している。加えて、同町では経済産業省支援事業であるスマートモビリティチャレンジのパイロットシティのひとつとして、日本郵便(郵便局)、トヨタ本社、福井県内トヨタ系事業全社が参画するオンデマンド交通の試走を昨年11月から開始し、今秋には実用化することを町議会で町長は明言している。
こうした行政の立場と、AJAJ会員のひとりとして取材者の立場で自動車メーカーや他の自治体や事業者に接してきた立場では、自動運転や地域公共交通に対する見方は大きく違うと自認している。
今回の意見交換会でAJAJ会員各位から出た、疑問や意見については至極当然だと思う。実際、永平寺町での自動運転実証への各方面からの視察では、もっと厳しい意見も出る。
そのなかで最も重要なことは、どのような立場にあっても「人と社会」のこれからについて、皆が当事者意識を持ち、現実解に向かう気持ちを共有することだ。
今回の貴重な意見交換会を通じて、こうした考えを改めて認識した。
■参加者(敬称略、順不同) |
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菰田潔、高山正寛、太田哲也、桃田健史、会田肇、鈴木健一 |