2023年1月17日、自動車産業の経済安全保障に関するAJAJ勉強会が実施されました。AJAJ岡崎五朗理事の計らいのもと、三菱総合研究所様、TMI総合法律事務所様のご協力によって開催されました。
ロシアのウクライナ侵攻により、軍事的な安全保障はもとより、経済的な安全保障に関するリスクが、現実の問題として顕在化しています。事実、トヨタ自動車や日産自動車は、ロシアにおいて実質的な損失を被っています。
地政学リスクの高い世界情勢は今後もしばらくは続く見込みであり、そのような状況下で自動車産業はどのようなリスクを意識し、行動すればいいのか。エキスパートの講師陣より講義を受けました。
■経済安全保障に関する最近の動向について
最初に、TMI総合法律事務所 パートナーの白石和泰弁護士から、経済安全保障に関する最近の動きについて講義が行われました。
ロシアのウクライナ侵攻が起きたことにより地政学リスクが顕在化し、日本の自動車産業においても経済安全保障にかかわる具体的な事例が発生してします。トヨタ自動車はロシア工場での生産から撤退し、また日産自動車もロシアの事業子会社の株式を1ユーロで売却し、約1000億円の損失を余儀なくされたという事例がありました。
そのような事態を受けて、経済安全保障推進法が施行され、4つの基本方針が策定されています。重要物資の安定供給の確保、基幹インフラ役務の安定供給の確保(電気や金融など)、先端重要技術の開発支援、特許出願の非公開、以上の4つです。
■CASE関連事業における経済安全保障上のリスクについて
続いて、TMI総合法律事務所の三代川英嗣弁護士から、自動車産業のCASE関連事業における経済安全保障上のリスクについて講義が行われました。
まず、電池のサプライチェーンの脆弱性についてです。EVのコストの30-40%を占める重要部品でありながら、サプライチェーンの脆弱性がリスクとなっています。原材料となる金属について、コバルトはDRコンゴが世界の3分の2を生産していますが、人権問題などサプライチェーンが極めて脆弱というリスクがあります。またバッテリーメーカーのトップ5の間で特許知財戦争が頻発しておりリスク化していることも指摘されました。
次にモーターのサプライチェーンの脆弱性について。永久磁石式モーターはレアアース(特にネオジム)を大量に使いますが、中国が60-70%の生産を占めており、リスク要因になっています。例えば近年、中国は輸出管理法・レアアース管理条例を公表し、輸出管理強化の動きを見せています。
これに対しては、リサイクル技術や代替材料の開発、海底資源の採掘技術の開発が求められます。ネオジム磁石は日立金属が特許において支配的な立場であるにもかかわらず、中国においては独占禁止法違反の訴訟が係争中となっているとのこと。
続いて半導体のサプライチェーンの脆弱性についてです。半導体はこのところ戦略物資として価値が高まっていますが、日本ではロジック半導体メーカーがなく輸入に頼っている現状です。また台湾企業が世界66%ものシェアを占めており、台湾有事があればリスクとなる状態です。
そのうえアメリカが中国に対してますます規制を強めており、半導体サプライチェーンが分断されている状況です。このリスクを受けて日本では安定供給を目指した動きを進めており、米国欧州韓国台湾との協力で国際的な協力体制の構築、TSMCの誘致、ラピダスの設立などロジック半導体のサプライ強化が図られているという状況です。
■半導体のサプライチェーンについて
つづいて半導体のサプライチェーンについて、三菱総合研究所の杉浦孝明氏から講義が行われました。
まず半導体の経済安全保障について。これについては、半導体不足、情報安全対策、技術開発と産業育成の3つの論点がありますが、これからの日本を自動車産業だけで支えることは難しくなっていくので、半導体産業もきちんと考える必要があるとの示唆がありました。
そして近年問題になっている半導体不足について説明がありました。まず半導体にもいろいろな種類があり、車載半導体に関しては、IC系と非IC系に分けられるとのこと。そして今足りないのはIC系と言われています。そのなかにはマイコン(いわゆるコンピューター)、ロジック(決められた動きをするもの。産業機械に一番多く使われる)、アナログ(パワー半導体)、メモリなどが含まれているとのこと。非IC系としては、トランジスタ、センサー(MEMS)などがあるとのことです。
主な半導体メーカーの紹介もありました。マイコンについてはルネサスや東芝が生産しています。ロジック半導体は国内メーカーは存在しないとのこと。その理由として、シンプルな機能で付加価値を出しにくいため国内産業としては廃れてしまったそうです。
パソコンやスマートフォンなどに使われる先端ロジック半導体と呼ばれるものは、4~7nmという非常に集積度の高いもので価値が高く、いっぽうで車載に使われるロジック半導体は20~40nmのものが多く、キーレスやエアコンのスイッチなどに使われているとのこと。
そしてパワー半導体については、電圧変換や周波数変換を行うもので、EVや電動車に使われており、三菱電機、東芝、富士電機、ルネサスが生産しています。
■パネルディスカッション
最後に、モデレーターとしてAJAJ会員の池田直渡氏が加わり、講師陣とのパネルディスカッションが行われました。
この中では、中国とアメリカの地政学リスクによって、日本国内や中国の自動車メーカーがどのような影響を受けるのか、また国内メーカーのグローバルビジネスにどのようなリスクが想定されるのか、などのテーマで議論が展開されました。
そして最後に、このような状況下で日本の自動車産業を維持・発展させていくために、サプライチェーンの強靭化や先端技術への投資、技術流出に対する買収への対抗策や特許防衛が重要であり、そういった論点を積極的に発信していくべきという結論で締めくくられました。
■参加者(敬称略) |
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有元生存/飯田裕子/池田直渡/石川真禧照/岡崎五朗/菰田潔/佐藤耕一/鈴木ケンイチ/鈴木直也/西村直人/高山正寛/堀越保/藤島知子/森川修/吉田由美 【オンライン参加】 会田肇/太田哲也/岡崎宏司/岡本幸一郎/工藤貴宏/滝口博雄/南陽一浩/山崎明/山本シンヤ |