未来を見据えた最新工場
日本を代表する名湯のひとつ、九州の別府温泉から北西に 50キロほど離れた所に大分県中津市がある。周防灘に面した中津の対岸には、造船で有名な宇部があり、この中津や別府湾を挟んだ大分市は、古くから鉄工業などで栄えてきた土地である。一方、海路で結べば中国大陸とも近いことから、近隣には他の自動車メーカーの生産工場もある。ダイハツ車体が新天地を中津に求めたのは、将来を見据えた英断とも言える。
さて、この中津にダイハツ車体の新工場が完成したのは、昨年の2月のことである。群馬県前橋市にあった拠点を閉鎖し、本社を中津に移したのが昨年の 11月。それまで、40年以上も前橋の地で操業してきたダイハツ車体だったが、手狭な敷地、施設の老朽化などの問題を抱えていた。好調にスモールカー市場のシェアを拡大していたダイハツは、生産効率の向上を求める。そうした課題を解消するために、新工場建設のプランを打ち立てたのだった。そのプランに基づき、中津への進出を表明したのは今から13年も前のことである。
ダイハツ車体は、予定地の環境アセスメントなどの事前調査を徹底し、先進の工場を完成させるために時間を費した。ダイハツ車体の基本コンセプトである「 C・C・C Wave」(クリーン、コンパクト、コンフォータブル)を現実化させるために。長い時間と労力を費やした甲斐あって、生産コストの削減、より高品質な製品を送り出せ、しかも環境にやさしい工場が出来上がったのである。
そんな最新鋭の工場を見学させて頂く機会を得て、その施設の充実度の高さを目の当たりにすることができた。これまで、国内外の生産工場を何度か拝見させて頂く機会があったが、敷地内に独自の廃水処理施設を有する工場はこの中津工場が初めてだった。しかも、中水レベルを遙かに超え、上水にほど近い状態に浄水して一部を再利用している。これまでの一般的な生産ラインに対し、 20%以上も節水が可能になったという。しかも、排水は瀬戸内海の環境保全のために設けられた、いわゆる「瀬戸内法」の基準を遙かに上回るレベルにあるという。敷地内にある、排水が貯められた池で鯉が育てられていたが、これは排水とはいえ上水にほど近いという証だ。
一方で、騒音や振動などへの配慮も行われた。 20ヘクタールに及ぶ広大な敷地を土盛りで囲み、植樹を施す。騒音の発生源である工作機は敷地のほぼ中央に配され、短いラインで取り囲む。巨大なプレス機からそう遠くない会議室にいても、騒音や振動は全く感じられなかった。また、施設内はブルーと白のカラーコーディネイトが施されているが、これは清潔で明るい雰囲気を作り、疲労感を和らげる従業員への配慮である。