2009年の東京モーターショーは、僕が知っているかぎり、もっとも活気のないショーでした。リーマンショックの影響で海外からの出展者数が大幅に減ったことに加え、国産メーカーの出展内容もインパクトに欠けるものでしたが、もっとも衝撃が大きかったのが入場者数の大幅な減少でした。ローカルショーに来たような閑散とした会場を目の当たりにし、大きな危機感を抱いだのはきっと私だけではないでしょう。
そういう意味で、2011年の第42回東京モーターショーは、自動車に関わるすべての人が背水の陣で臨む一大イベントでした。
結果として、会期を前回の13日間から10日間へと3日間短縮したにもかかわらず、入場者数は前回比37%増の84万2600人を記録。もちろん、入場者数だけが成否を判断するモノサシではないのですが、会期中何度も足を運び、会場の生の空気を味わった私としては、今回のモーターショーは「成功」だったと感じています。
「このままではマズい」「手をこまねいて眺めているわけにはいかない」という多くの人の想いが見事に実を結んだわけです。
そんななか、AJAJもモーターショーを積極的にサポートする姿勢を打ち出し「プロの運転による乗用車同乗試乗会」や、「自動車ジャーナリストと巡る東京モーターショー」を実施しました。
私が参加した「自動車ジャーナリストと巡る東京モーターショー」、いわゆるガイドツアーは、募集人数を前回の450名から1000名へと大幅に拡大。事前予約制、しかも有料(700円)だったにもかかわらず、定員を超える申し込みがあったとのことです。
ハイテク満載のコンセプトカーや注目の最新モデル、華やかな輸入車を眺めることがモーターショーに行く「一般的な動機」なのは今も昔も変わりませんが、それにとどまらず、その背景に潜んでいるより深い情報なり解釈なりを知りたがっている人たちがいます。自動車ジャーナリズムの存在意義を改めて認識できたという意味でも大きな収穫でした。
そんなわけで、ガイドツアーを実施するにあたっては、雑誌やネットではなかなか見聞きできない深い情報を、参加者の方にわかりやすく伝えることに留意しました。情報をありのままに伝えるのではなく、「なぜ?」という視点での解説を加える。そうすることによって、各メーカーのブースに展示されているクルマなり、技術なりが、それぞれ有機的につながり、全体像が見えてきます。
実際、ツアーの後半部になると、私が解説を始める前の段階から鋭い指摘が飛び出して驚かされることもありました。一例を挙げるなら、EVに特化した日産の展示内容に対し「バンザイ突撃のようだ」と評した方がいました。ICEの効率化、HEV、PHEV、FCといったほかのメーカーの様々な取り組みの背景を知ったうえで日産のブースを見て、果たして大丈夫なのか? と思えたというのです。
EVだけが未来に対する回答である、という認識が必ずしも正解ではないということが「伝わった」瞬間です。もちろん、日産のブースがEVに特化しているのは主にブランディングやマーケティング上の理由からであり、彼らも全方位での開発姿勢を崩していないこと、ほかのメーカーもEVの開発を積極的に推進していることはお伝えしましたが、全体像を俯瞰することで、理解がより深まることの好例といえるでしょう。
雑誌はもちろん、ネット媒体であっても、われわれ自動車ジャーナリストからの情報発信は一方通行になりがちです。それがマスメディアの本質であるのも真実の一端なのですが・・・。フェイス・トゥ・フェイスでのコミュニケーションをとりながらの情報発信は、大いに新鮮かつ参考になるものでした。われわれが伝えていないもの、伝えきれていないものは、まだまだたくさんあるのです。
■参加者(敬称略、五十音順) |
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会田肇/有元正存/石川芳雄/岡崎五朗/岡本幸一郎/加瀬幸長/片岡英明/川端由美/菰田潔/加藤順正/河口学/工藤貴宏/近藤暁史/斉藤聡/斉藤慎輔/鈴木健一/鈴木直也/高根英幸/高山正寛/滝口博雄/竹岡圭/津々見智彦/中村孝仁/西村直人/橋本玲/伏木悦郎/藤島知子/堀越保/松下宏/丸茂亜希子/丸山誠/桃田健児/森岡和則/諸星陽一/山城利公/山崎元裕/吉田由美 |