ユニークな都市型モータースポーツイベント
『モータースポーツジャパン(MSJ)フェスティバル イン お台場』は、2006年に始まる日本最大級のモータースポーツイベントだ。アイデアとしては英国・ウエストサセックス州のグッドウッドで1993年から行われているメGoodwood Festival of Speedモの日本版で、南イングランドの片田舎で壮大なスケールで繰り広げられるイベントにインスパイアされモータースポーツ関係者がNPO法人を立ち上げ今年で7回目の開催を実現している。
グッドウッドについてはプレスツアーの提案で微力を捧げ、延べ6回当地を訪れているので思い入れは深い。現在のグッドウッドの当主チャールズ・マーチ卿によって企画された世界レベルのモータースポーツイベントは、始まりは3000人規模のローカルなエンスージャストの集まりだったという。01年に初めて訪れた際はすでに3日で10万人に迫る規模になっていたが、それから年を追うごとに観客は増え続け、11年はほぼ倍増の18万人に達したと聞く。
グッドウッドは、公共交通機関は絶望的に未発達の片田舎。そこに二桁の万人が集う。アクセスはクルマかバスツアーに限られるが、そこは牧草地をはじめ広大な土地を私有する貴族である。何万台というクルマの駐車に支障を来すことはない。マーチ卿の母屋グッドウッドハウス前、正門あたりからスタートして右にターンして左に館を見ながら高低差57mを2kmほど走る。牧草地から森を駆け上がる、道幅の狭い、いわゆる取付道路だが、ここを最新のF1をはじめ新旧様々なコンペティションマシンが走る。
パドックに佇む新旧の宝石のようなマシン、コンクールデレガンス出展車のクォリティ、競うように展示ブースに趣向を凝らす各国の大手メーカー。有料入場で?116(邦貨換算14,860円:weekend)は安くはないが、中身の濃さとのバランスにおいて十分納得が行く。
MSJは、都心で開催され、一部を除いて原則無料。自動車のイベントでありながらクルマでアクセスするより公共交通機関のほうが便利ということを含め、いろんな意味で日本の現状を象徴的に語る。”本家”Goodwood Festival of Speedを知る者としてはいくつも注文をつけたいところだが、ひとつだけ誇れることがある。
まったくの手前味噌になってしまうが、『母と子の楽ラク運転講習会~お父さんもご一緒に~』と『ふれあい試乗会』という私共AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)が主催または会員の参加によって協力しているコンテンツがそれだ。
クルマはコミュニケーションツール。ふれあい試乗会の意義は深い
安全な運営は当然。無償で貸与されている広報車両なのでタイヤの磨耗にも注意を払う必要がある。いっぽうで、「同乗者にどのような走りがお好みで?」念のためにというかコミュニケーションを取る掴みの言葉として尋ねると、これも「全開で!!」「可能な限り速く!」「バリッと行って下さい」判で押したような答えが返ってきた。
その信頼のされようは不思議なほどだったが、すでに過去に経験のあるリピーターも多く、またアミューズメントパークの絶叫系アトラクションを楽しむかのような感覚で乗り込んでくる人も多かった。許される範囲でご期待に沿うよう心掛けたが、走りながら言葉を交わし反応を見ていると、非常にシンプルな感想が湧いた。
「老若男女皆クルマで走ることが好き」安心と安全が前提であるのは間違いないが、本能に近い部分でクルマの本質的な魅力のひとつスピードが生み出す心地好さを求めている。
日本の自動車シーン全体から見ればほんの氷山の一角にすぎないだろうが、あの約20秒の走りで経験した感覚は、間違いなく彼らの身体に刻み込まれ、あの瞬間に身体感覚は大きく変化した。幼児も老人も男女を問わずそうだろう。20秒という時間は短くて物足りなさを残したかもしれないが、多分あれ以上長いとビギナーには辛く悪印象のほうが深まる。
人にとってファーストインプレッションは大切だ。初めて知るインパクトのある感覚は、その後のその人のあり方を左右する。試乗車から降り立った皆さんの表情を見ていると、これは本当にクルマ好きを増やす具体的かつ効果的な”アトラクション”かもしれない。
とくに目を輝かせて「面白かった!!」と叫ぶ幼児たちの反応は印象的だ。「ありがとうございます」と礼を言いながら帰って行く皆さんの表情は、またやろうという気持を強くさせた。次回また同じ笑顔に出会うことを楽しみにしている。
■参加者(敬称略、五十音順) |
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岡崎五朗、桂伸一、日下部保雄、斉藤慎輔、瀬在仁志、高根英幸、津々見友彦、伏木悦郎、藤島知子、堀越保、山城利公 |