曙ブレーキ 勉強会 その2

開催日:2015年12月16日
場 所:曙ブレーキ本社(埼玉県羽生市)

TVドラマ『下町ロケット』が22.3%の高視聴率を記録し大ヒット。私も毎回テレビにかじりつき、胸を熱くしていましたよ。日本のモノづくりってスゴイ!

曙ブレーキ 製品最終回を目前に控えた12月16日(水)、埼玉県羽生市に本社(グローバル本社は東京都中央区)を置く、曙ブレーキ工業㈱で勉強会が開かれました。

不勉強この上ないことに、曙ブレーキと聞いて思いつくのは、マクラーレンP1のブレーキを手掛けた会社ということぐらい。モノづくりの現場という共通点だけで、佃製作所のような昭和の面影残る、小規模だが熱意溢れる会社なんだろう、そんな想像をしながら現地へ向かったのでした。

ところが、そんな独りよがりなイメージは、一瞬で崩れました。

さきたま古墳群にほど近い、のどかな田園風景の一画に、ショーケースのように光り輝くガラス張りの社屋がドーンと姿を現したのです。その名も、「クリスタルウィング(CW)」。聞けば、社員数は全世界で約9,000人(うち7割が海外拠点の社員数)。佃製作所なんてとんでもない! こりゃ、帝国重工だわ~。

 

曙ブレーキ勉強会 風景社長の挨拶、そして会社概要についてのレクチャーを受けると、かなりのグローバル企業であることが判明しました。どーもすいません。そんな私のにわか知識ですが、少々ご紹介しましょう。

曙ブレーキ工業㈱は、1929年創業の独立系ブレーキ専業メーカーです。自動車用ブレーキ製品が売り上げの9割を占め、ブレーキパッドやブレーキライニングなどの摩擦材、ディスクブレーキやドラムブレーキなどの構造部分を、総合的に開発、製造し、グローバルに供給しています。また、自動車用ブレーキのほかにも、マウンテンバイクから新幹線、風車など、あらゆるブレーキを手掛けています。

売上では、OEM事業が7割以上を占め、その主な取引先は、トヨタ、日産、ホンダをはじめ、すべての国産メーカーと、GMやクライスラーなど、多くの海外メーカーです。現在、日本の自動車用ディスクブレーキパッドのシェアは純正採用でおよそ40%を誇っているということでした。

そんな曙ブレーキの強みは、大きくわけて2つ。
ひとつは、ブレーキシステムをパッケージとして製造でき、顧客のニーズにあったものが作りやすいということ。ブレーキ会社といっても、同社のように、パッドとキャリパーを一緒に製造している会社は、実のところあまり多くはないのだそうです。

そしてもうひとつ。“技術のトランスファー”という言葉で表現されていましたが、自動車用ブレーキの技術を、それ以外のブレーキにも応用しやすい、といったことも大きな強みであるとのことでした。

 

曙ブレーキ 製品 展示今回、見学ができたのは、さまざまなブレーキシステムを集めた展示室、ブレーキの“鳴き”について解析を行う部署、ディスクブレーキの性能テストを行う部署、ブレーキ博物館の「Ai-Museum(アイ・ミュージアム)」、研修施設「Ai-Village(アイ・ヴィラージュ)」の5か所。

各部署、施設では開発の方により、詳しく説明していただきました。普段、完成車両に触れる機会は多いものの、分解したブレーキ内部など、ほとんど見る機会はありません。今回は、ディスクブレーキやドラムブレーキ内部、ブレーキキャリパーの構造から、パッドに至るまで、実際に手に取ってみたりすることができるなど、とても貴重な体験をさせていただきました。

印象的だった見学内容をいくつか挙げてみましょう。

まずは、ブレーキキャリパーに内蔵されているピストン素材について。これまでスチール製が当たり前でしたが、近年は軽量化のため、アルミ製のほか、樹脂製のものも乗用車に使われるようになってきているということでした。直径60㎜のもので比べれば、400gあるスチール製に比べ、樹脂製は約200g。実際に手に取ってみると、軽っかるでした。樹脂製ピストンは、欧州ではあまり普及していないとのことでしたが、乗り心地の快適性が求められるアメリカでは、定期的に交換することを前提に、普及が進んでいるようです。

ブレーキ博物館では、同社の歴史からさまざまな製品、独自の技術について紹介されていました。

なかでも、大きさが乗用車用の3倍はあるかと思われる、新幹線用ディスクブレーキにはビックリ! 280kmで走行中に緊急ブレーキをかけても、制動距離は約4kmにもなり、乗客側には急ブレーキがかかってるかどうかは、わからないということでした。ひとくくりにブレーキといっても、乗用車用と新幹線用で求められる性能には違いがあるんですね。

また、新幹線用ディスクブレーキライニングのコーナーは大盛況。「なぜパッドが丸形なのか?」「内部の構造は、どうなっているのか?」など、開発者への質問が飛び交い、にぎやかな新幹線談義が繰り広げられていました。

意外な製品に思えたのは、センサー機器です。曙ブレーキでは、20年ほど前から、センサー機器開発を進めているとのこと。ガラスケースのなかには、1㎝四方程度の半導体を内蔵した、加速度センサーが展示されており、これらは自動車だけでなく、新幹線にも採用され、振動を抑える制御にも一役買っているということでした。

横には、土木用センサーの展示も。なかでも、振動を与えることによって、コンクリートがしっかり充てんされているかを調べる「ジューテンダー」というセンサーは、国交省推奨の製品だそうです。

 

今回の勉強会は、最初から最後まで、とても有意義なものでした。いちユーザーの立場から言えば、ブレーキはクルマの部品のひとつにすぎません。とはいえ、その種類は幅広く、地域によって求められるものもさまざまであることを知り、改めてクルマ産業のすそ野の広さを感じました。

さらにいえば、日本には曙ブレーキのような、モノづくりを支える企業がたくさんあり、その技術を世界に輸出しています。日本のモノづくりは、日本を支えるパワーの源なんですよね。

見学中、ある開発者の方に、ドラマ『下町ロケット』についての感想を聞いてみると、彼はこう答えてくれました。
「“ドンッ”と机を叩くようなドラマチックなことは、正直いってあまりないですね。ただ、お客さんからは厳しい要求がどんどん舞い込んできて、それをクリアしたときの達成感というのはあります。共感はできますよ!」

やっぱり、そうでしたか! きっと日本の多くの技術者の方々が、勇気づけられているはず。それなら私も、というわけで、日本のモノづくりにエールを送って〆たいと思います。

フレーフレー曙ブレーキ! フレーフレーニッポン!

曙ブレーキ勉強会 記念撮影
■参加者(敬称略、五十音順)
会田肇/有元正存/石川真禧照/一条孝/内田俊一/岡島裕二/加瀬幸長/加藤順正/川端由美/日下部保雄/工藤貴宏/菰田潔/鈴木健一/鈴木直也/スーザン史子/瀬在仁志/高山正寛/田草川弘之/竹岡圭/近田茂/中川和昌/中村孝仁/萩原秀輝/伏木悦郎/堀越保/松下宏/丸山誠/森川オサム/諸星陽一/吉田由美/米村太刀夫