2016年11月2日に栃木県のブリヂストン栃木工場にてAJAJ会員向けにブリヂストン「タイヤ勉強会」が開催されました。
ブリヂストンの勉強会はこれまでにも数度開催されており、ここ最近では同社の東京都小平市にある東京工場の最新研究開発施設の見学勉強会が開催されています。
今回の栃木工場での勉強会のテーマは、
1.発泡ゴムに関するこだわりと想い、
2.モノづくりへの想い、
です。
発泡ゴムは同社のスタッドレスタイヤに採用されている独自技術で、1988年に発売された初代ブリザックで初採用され、さまざまな改良をされながら現在の最新モデルでも採用。市場では非常に高い評価を受けています。
もう一つのテーマのモノづくりへの想いとは、いわずもがなですが同社のタイヤづくりに対する基本姿勢です。こちらは座学だけでなく、工場見学も実施されました。
勉強会のスタートは「発泡ゴム」からでした。
ブリヂストンでは82年にスタッドレスタイヤの販売を開始。
これはスパイクタイヤによる粉塵公害問題が叫ばれ始めたのとほぼ同時期です。
当初のスタッドレスタイヤは特にアイスバーンにおいてはスパイクタイヤの性能に及ばなかったものの、それでも改良されるたびに性能が向上していきました。
そして、ブリヂストンのスタッドレスタイヤの性能を一躍向上させたのが「発泡ゴム」でした。
タイヤがアイスバーンで滑りやすくなるのは、タイヤとアイスバーンの間にある水があるためです。
この水は、タイヤがアイスバーンに接地するとそのタイヤの圧力で氷が解けて発生するものです。
滑りを抑えるには、この水をタイヤの表面から素早く排除し、タイヤのゴムをアイスバーンの氷に接地させてやることが必要です。
発泡ゴムはいわばスポンジのようにこの水を吸収することでタイヤを氷に接地させて高いグリップ力を引き出しているのです。
スポンジのようにとはいうものの、タイヤは大きな荷重に耐えなければならないため、台所スポンジのように柔らかでスカスカというわけにはいきません。
通常のタイヤのゴムのようにしっかりとしていながらも、氷の表面にピタリと密着する柔軟性を備えつつ、水を吸い取る空洞を備えるという課題があります。
タイヤのゴムを柔らかくするには、軟化剤などオイル分を混入する方法があります。しかし、オイル分は時間の経過で徐々に抜けていきタイヤが硬くなって性能が低下します。
その点、発泡ゴムは水を吸い取るだけでなく、気泡が空気バネとしての機能があるため柔らかさが保たれるというメリットがあります。
タイヤが減っても連続的に気泡が現れるので、性能が維持されるのも特徴です。
いいことばかりに思える発泡ゴムですが、商品化は困難だったということでした。通常のタイヤであればゴムに気泡があるのはご法度です。
小さな空洞が破壊の核となるからです。
それなのに敢えてタイヤのトレッド部に大量の空洞を均一に作るというのは、製造上これまでにないだけでなく、技術サービスや販売部門からも疑問視されたということでした。
製品化においては製造ラインの一部変更が必要だったということです。変更点の詳細は秘密だということですが、タイヤの生産初期の工程のようです。
技術サービスや販売部門の壁は、製品技術、品質保証の再構築に加えてプロトタイプのユーザー評価がとても高かったことが後押しになったということです。
発泡ゴムを採用したブリザックシリーズは発売開始から性能の高さで好評となり、その後も数年ごとにモデルチェンジされてさらに性能をアップ。
発泡ゴムは単純な丸い気泡から気泡同士を管でつないだり、気泡と管を摩耗時につなげてより大量の水を除去したり、気泡と管の内面に親水性コーティングを施して素早く水を除去させる技術を採用。同社の最新のスタッドレスタイヤの氷上での性能は、一般的なスパイクタイヤをも超えるということです。
スタッドレスタイヤの座学の後、栃木工場の説明に続いてタイヤの製造ラインの見学となりました。
高性能、高品質、そして多種類のタイヤがどのように作られるのかはとても興味深いところです。見学はほぼタイヤの製造過程を追って進められました。
ざっと紹介すると、まず第一段階はゴムやそれ以外の材料を混ぜ合わせます。
ゴム練りと呼ばれ、その内部は見ることは出来ませんが、ケーキのスポンジなどを作る作業の大型版と思っていいでしょう。
多種の材料をまんべんなく混ぜ込んでいきます。
次に練り込んだゴムをシート状に伸ばします。
さらに部位に応じた厚さや幅に成形。タイヤの部品としてはインナーライナー、ビード、トレッドゴム、スチールやナイロンなどのコード類があります。
これらを組み立てていくと、タイヤのような形が出来ると思いきや、その形状はドーナツの穴の部分を外側にはみ出させたふうとでもいいますか。
トレッドパターンはなくつるんとした黒い物体です。
これをタイヤの形をした金型に入れて加熱処理するとタイヤの完成です。
加熱処理は乗用車用の一般的なサイズで140℃で8〜14分、トラックや飛行機用など大型になるとタイヤ全体をムラなく加熱するために時間が長くなるということです。
先ほど完成と書きましたが、金型から取り出しただけでは本当の完成ではありません。取り出したタイヤにはスピューと呼ばれる大量のヒゲが生えています。
最近のタイヤにスピューはほとんどありませんが、金型には空気の抜きの細い穴があり、それがタイヤのトレッドやサイド面にピョンとヒゲのように飛び出しているのです。
性能上はそのまま使用してもすぐに磨耗してなくなるので問題ないのですが、見た目をよくするために切り取っています。しかし、地域によってはヒゲがあるれば新品に間違いないということで、切らないケースもあるというのが面白いですね。
そして、最終段階で驚かされたのが、作られたタイヤは全品が検査されるということです。もちろん機械で自動的に・・・検査したうえでさらに人間がチェックするのです。
機械では転がしたり、サイズを計測したり、リム組してエア漏れがないかなどを行い、人間は目視で外観に異状がないか、異物混入などをチェック。
切りそびれたスピューがあれば、この時点で人間がカットします。だいたい1本あたり18〜23秒で検査をするということです。
この検査員になるには社内の規定があり、3〜6カ月の研修期間中に歩留まりが0.001%以下になる必要があるそうです。
こうしたエキスパートによって全品チェックされ、規定に合ったタイヤが晴れて市場に届けられるということです。
ブリヂストンはスタッドレスタイヤの宣伝コピーとして「ちゃんと買い」をうたっていますが、そう言うに相応しく「ちゃんと作られている」と感じた工場見学となりました。