運転操作の現実

開催日:2000年1月30日
場 所:

運転操作の現実

このレポートは、AJAJ安全部会に属する会員が1999年までに行った個々の活動に基づく意見交換のまとめである。意見交換に参加した会員は、ジャーナリスト活動の他にさまざまな安全運転スクールのインストラクター活動も行っている。そうした現場では、一般ドライバーと触れ合う機会が多く、クルマが身近になりすぎているジャーナリストの立場では想像も及ばないような体験や質問を受けることがある。そこで、そうした中から特徴的な内容についてAJAJ安全部会のレポートとして発表する。このレポートが、AJAJ会員のジャーナリスト活動と、関係各位の活動に少しでも役に立てば幸いである。

[ 安全運転スクールの現場から ]

安全運転スクール風景高度な電子制御化により、クルマは誰でも容易に運転できるようになった。一方で、基本的な運転ができない人の増加傾向が認められる。その典型が、アクセル操作である。基本は、想定するスピードを出すために必要なだけアクセルを踏む。そして、スピードに達する前にアクセルを戻しはじめることだ。ところが、アクセルを深く踏み込み想定するスピードに達してから一気に戻す。さらに、スピードを調整するために比較的大きなストロークのアクセル操作を繰り返す。つまり、アクセル操作がオン・オフ的であり、せいぜい3段階程度の踏み込み量を使い分けている人が多い。

また、ブレーキ性能を過少評価し、エンジンブレーキについて過大に期待する傾向が認められる。現場でも、エンジンブレーキの使い方について質問されることが多い。例えば、本来はフットブレーキで減速すべきところでもエンジンブレーキに頼るような走り方が前提となっていたりする。高速道路での減速のために、ATのODスイッチをOFFにするような操作は典型だ。そのタイミングを質問され、解答に困ったという例もある。もちろん、こうした操作はブレーキランプが点灯しないために適切とはいえず、後続車が前車の減速に気づいてからブレーキを踏むことになるだけに渋滞の原因を生み出す。現場では、そうした説明をしている。滑りやすい路面でのエンジンブレーキの使い方についての質問も多い。前提として「滑りやすい路面ではエンジンブレーキを使う方が安全」という認識がある。だが、エンジンブレーキに頼りすぎることの危険性については、まったく認識していない。さらにいえば「ブレーキペダルを踏む=運転が下手」との誤った認識があるのではないかとも思われる。

ブレーキ性能に対する認識の不足も指摘できる。現場で「80km/hから指定位置で止まるためのブレーキを踏むタイミングを計りつつ急制動する」というカリキュラムを行うと、かなり運転に対する習熟度が高い人でも課題の達成が困難である。ほとんどが、指定位置よりも大幅に手前(30mから40m)で停止する。つまり、ブレーキ性能を過少評価しているのだ。なかには、指定位置を過ぎて停止する例もあり、まだ過少評価することの方が問題は少ないとの見方はできる。ただ、過少評価をする度合いが想像以上に大きいことは知っておく必要がある。

[今後の改善に向けて考えられる課題]

1.技術的な課題

アクセル操作については、ドライブ・バイ・ワイヤー化によって運転操作に応じたエンジン制御を行うことで改善が可能であろう。エンジンブレーキについても同様であり、ATの場合は適切なAI化を推進して基本的にはDレンジのままであらゆる場面に対応できることが必要になる。ただし、ODスイッチによる減速や滑りやすい路面でのエンジンブレーキの積極的な使用といった、現状追認の域を脱していない考え方が関係各位にも認められるため、技術開発における思想的な背景に対しては大いに配慮するべきである。

2.適切な情報の伝達

アクセルのドライブ・バイ・ワイヤー化にしても、ATのAI化にしても、現状を踏まえた対処療法的な技術開発でしかない。安全のために重要な、クルマを運転することに対する意識の向上や知識の習得、さらに技術の習熟には結びつかないことを知るべきだ。したがって、技術開発によって運転が容易になることだけではなく、根本療法的な領域を踏まえた情報の伝達を心掛ける必要がある。