■第3部テーマ
「ハイブリッド車のブレーキとその進化について」
講師:トヨタ自動車HVシステム開発統括部室長:高岡敏文氏
HVにおいて低燃費を実現するためには、制動時の運動エネルギーを最大限に回収するブレーキシステムの開発が欠かせない。また、走行中のエンジン停止を実現するために、エンジン負圧を利用しないブレーキブースター機構が必要となる。
プリウスでは回生ブレーキ制動力と、油圧ブレーキ制動力を協調させた回生-油圧ブレーキ協調制御機能を搭載している。回生ブレーキと油圧ブレーキの制動力の配分を可変させることで、減速エネルギーを最大限に回収しているのだ。この協調制御が一般的なブレーキシステムと大きく異なるのは、ブレーキペダルを踏むことで発生する油圧が直接4輪の各ブレーキに伝えられるわけではないこと。油圧を途中で調整したり、また別系統の高圧ポンプで発生させた油圧で各ブレーキに伝えられる。
ブレーキシステムは初代から代を重ねるごとに発展。初代は回生協調に特化していたが、2代目はブレーキアシストやVDIMなど予防安全、運転支援拡充に対応できるシステムに進化した。3代目ではFF用HVに特化させて小型を実現。VSCやブレーキアシスト、プリクラッシュセーフティなどにも対応させている。また、多車種への展開も考慮されているという。単にシステムがアップデートされているわけではなく、それぞれの代で明確な方向性をもってシステムが構築されているのだ。
■第4部テーマ
「電子制御ブレーキの件」
講師:トヨタ自動車第2乗用車センターチーフエンジニア:大塚明彦氏
現行プリウスで起きたブレーキのリコール。不具合個所はABS制御のコンピューターにある。不具合内容はABSの制御プログラムが不適切なため、緩い制動中に凍結路や凹凸路などを通過してABSが作動すると空走感や制動遅れを生じることがあるというもの。
プリウスは通常のブレーキ操作では、回生ブレーキと高圧ポンプで作られた油圧での機械ブレーキで制動力を得ている。ABSが作動すると、タイヤのロックを解除するために制動力を弱める。回生量と油圧を下げるのだ。その後再び制動力を上げるのだが、このときは油圧を使用した制動がメインになるのだが、その油圧が高圧ポンプからブレーキペダルを踏むことで作られた油圧(踏力圧)に切り替わる。その踏力圧が、高圧ポンプによる油圧より低いため、制動力が弱なって空走感が現れるという。
この踏力圧と高圧ポンプの油圧の差は、軽いブレーキング時のほうが大きい。ABS作動時にさらにブレーキを踏み増すことで即座に踏力圧は大きくなるのだが、それでも通常のABSよりわずかに減速が弱まわる。
対策内容は、ABS作動直後は油圧回路の切り替えを中止し、高圧ポンプ油圧による制御を継続するプログラムとされた。これにより、ABS作動直後も作動前の油圧まで戻されるため、踏力と減速感とのズレによる空走感が改善されるということである。
今回の現象は開発陣も認識していたという。しかし、ABS作動時になぜわざわざ踏力圧に切り替えるのかというと、高圧ポンプの油圧を使用したABS作動は、油圧回路による音や振動がわずかに発生するためだ。これを嫌ってABS作動時に踏力圧に切り替えているのだ。この方式でも法規上の減速力は得ており、またペダルを踏み増すことで油圧差は瞬時に解消される。開発陣の認識としては、わずかな違和感はあるものの、音と振動の抑制を重視したということである。
積雪地ユーザーからの声が発端となった今回の問題は、現実のユーザーがどのようなクルマの使い方を把握できなかったことも原因のひとつ。積雪地ユーザーの多くは、ABSの作動を嫌い、タイヤのロック寸前をさぐるような軽めの踏力でブレーキを踏む傾向にあるという。そのため、ABS作動時にブレーキを踏み増すことが少ないということだ。
トヨタでは、今後はさらにユーザーの使用実態をより広く把握して開発にフィードバックさせたいという。また、ABSに限らずクルマの安全装備やメカニズムをユーザーにより広く知ってもらう活動にも、一層力を入れていきたいということだ。われわれとしても、ユーザーの安全意識やメカニズムに対する知識などを深める活動を今後さらに積極的に行っていく必要性を感じた。
■参加者(敬称略、五十音順) |
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会田肇、有山勝利、飯田裕子、家村浩明、石井昌道、石川真禧照、石川芳雄、一条孝、太田哲也、大久保力、岡崎宏司、岡島裕二、岡崎五朗、加瀬幸長、桂伸一、加藤順正、河口学、川上完、川島茂夫、菊谷聡、木下隆之、日下部保雄、工藤貴宏、菰田潔、近藤暁史、斎藤慎輔、佐藤久実、島崎七生人、鈴木ケンイチ、スーザン史子、瀬在仁志、高根英幸、高山正寛、滝口博雄、田草川弘之、竹岡圭、近田茂、津々見友彦、徳大寺有恒、戸田治宏、長嶋達人、西村直人、萩原秀輝、橋本玲、伏木悦郎、藤島知子、堀越保、松田秀士、松下宏、丸茂亜希子、森野恭行、森口将之、諸星陽一、山口京一、山崎公義、吉田由美、吉田匠 |