BOSE AUTOMOTIVEの主催によるANCに関する勉強会

〖 BOSE EHC=ANCのシステムとその狙い〗

自動車ANCの例 スライド最初に素朴な疑問としてあったのは、ANCがその目的のために新たなシステムとして用意される必要があるの? ということでした。ANCは、問題とされる騒音(FUGAで問題とされたのは主に低速域での”こもり音”です)をマイクで検知して、その音源の逆位相(180°Cの位相差)の音を発生させてこもり音として認識される高調波に当ててノイズを打ち消す装置です。

これは新たに別系統のハードウェアを必要とするものではありません。アンプとウーハーなどを備えるプレミアムオーディオのハードの機能を用いて、効果を得る。その意味では重量負担などのネガを最小限に留められるソフト主体の技術展開といえるようです。基本的に高価なオーディオシステムを前提としているので、幅広い応用が効くとは思えませんが、その効能、効果は注目に値するものがあると思います。

FUGAに搭載されるANC(BOSE EHC)は、千数百回転という比較的低回転域で3速ロックアップ作動時などに発生が予想されるこもり音(高調波)などに焦点を当てて、その逆位相となる音を4枚のドアとリア・パーセルシェルフ上の計5個のウーファーから放出してキャンセルさせる。音の検知には天井に新設された2個のマイク(前席1、後席1)を使ってフィードバック制御を行う。と同時に、エンジンの一定のサイクルで回る機械的な特性から事前に問題となる高調波をエンジン回転数(参照正弦波)として特定し、フィードフォワード制御も行う。

そこには、SAN(Single Adaptive Notch-filter)アルゴリズム云々といった専門分野の地平が横たわるのだが、ここはシンプルにプレミアムオーディオシステムのウーファーとアンプの能力的余裕を活用し、こもり音の検知と逆位相音の放出によって静粛性の向上を図る、と理解しておこう。システムのために新たに用意する必要があるのはルーフ設置のマイクとそのラインだけです。

ここで何故低回転域の高調波にこだわったのかを考えましょう。FUGAは日産を代表するプレミアムセダン、プレジデント、シーマなき後のフラッグシップと言えるクルマです。かつては最新の革新的技術はまずセドリック/グロリアから…という不文律が日産にはありました。その系譜に位置するFUGAにもその伝統は活かされている、ということでしょうか。

プレミアムセダンならではの快適性のため?ANCを標準装備(BOSEオーディオシステムはオプション)する理由としては、まずそのことが頭に浮かびますが、最大の目的は燃費の改善にあったようです。このところ燃費はすべてのクルマの最優先課題となっていますが、FUGAも例外ではなかったようです。

 

〖 音を消すと燃費がよくなる?〗

エンジンノイズ スライド現在、日本の乗用車の新車販売の95%はAT車になっています。その大半はトルクコンバーター付きのいわゆるオートマ車ですが、燃費改善のためにロックアップを幅広く使うことが珍しくなくなっています。FUGAでもなるべくそうしたい。ところが低回転域でロックアップを作動させるとこもり音が発生して上質感を損ないやすい。従来はこの領域ではロックアップをさせないでバランスを取っていたといいます

そこでANCを活用して、実用領域での早期ロックアップを可能にし、燃費向上を試みようというわけです。その効果のほどは具体的には開示されていませんが、FUGAの開発責任者は『バカにならないレベル』という表現で価値を認めているということです。

このBOSE-EHCを採用したANCは、すでにFUGAのBOSEプレミアムオーディオ(オプション)装着車には採用されていて、今年終盤に登場するFUGA・hybridにも用意されることが決まっているようです。

今回のBOSE ANC勉強会では、音の同位相、逆位相の体感やオシロスコープによる可視化、室内空間でのANCの体感、実車(FUGA)を用いてon/offスイッチを付加した上での効果の体感(停車時)などによって、BOSE-EHCの実体とANCとはそもそも何か?について理解が深く及ぶことになったのが最大の収穫でした。

オーディオに凝ると、省資源、環境保全に結びつく…ちょっと大げさかもしれませんが、新たな視点としては面白いと思います。このFUGAに採用されているANCは、アンプのウーファーが生命線。したがって、スピーカーは別のやつがいいね…などと言って換えてしまうと、狙った性能が得られなくなるそうです。注意しておきたいポイントですね。

音の増幅/音の打ち消しパネル
■参加者(敬称略、五十音順)
会田肇、有元正存、石川真禧照、、石川芳雄、太田哲也、岡崎五朗、神田重巳、河口学、日下部保雄、工藤貴宏、近藤暁史、鈴木健一、鈴木直也、高根英幸、高山正寛、滝口博雄、竹岡圭、近田茂、長嶋達人、西川淳、西村直人、萩原秀輝、伏木悦郎、堀越保、松下宏、松田秀士、丸茂亜希子、森岡和則、山崎公義、山崎元裕、米村太刀夫